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Music People Vol.72 中浦茂樹

フィードバックが大事


私は、工業高等専門学校に勤務し、吹奏楽部の顧問として指導するとともに、学生達と共に演奏会に参加することで演奏も楽しんでいます。高等専門学校、略して「高専」という学校は、中学卒業後に入学し5年間をかけて主に工業系の専門教育を行い、実践的な技術者を育成する高等教育機関となっています。ですので、学校に在籍する子達は生徒とは呼ばず学生と呼びます。また、指導する教員も普通高校で行われるような基幹教育科目を担当する教員の他に、それぞれの学科で行われる専門科目を担当する教員が多く働いており、専門科目の担当教員は大学で指導する教員と全く同じ資格・知識を有した人たちとなっています。つまり、教員でありながら研究者でもあるということになります。


さて、私自身も機械工学科に所属する教員ですので、専門とする分野があります。それは、「制御工学」とよばれるものです。身の回りで、何らかの形で動いているものは、多くの場合で制御技術が使われています。言い換えると、制御されていないと知的に動くことはできない、とても大事な学問の1つです。
さて、その制御というものをインターネット百科事典のWikipediaで調べてみると、「制御工学とは、入力および出力を持つシステムにおいて、その出力を自由に制御する方法全般にかかわる学問分野を指す。主にフィードバック制御を対象とした工学である。」と書かれています。まず、システムというのは、制御したい対象のことを言っています。そのシステムは、入力というアクションを行うと、出力というリアクションが返ってくるものでないとダメです。なぜなら、入力をうまく調整することで、出力を自由に制御することが制御工学の本質であるからです。


ここで、最も大事な考え方は"フィードバック"というものです。これもWikipediaで調べてみると、「フィードバックとは、もともと帰還と訳され、あるシステムの出力を入力側に戻す操作のこと。」とあります。つまり、システムの出力をみて、それに応じてシステムへの入力を調整する、ということです。
学問的には、調整の仕方の理屈を数学的に考えるのが制御理論。その理屈を使って、ほんとに上手くいくかどうか、工学的に実際に確かめるのが制御応用ということになります。ちょっと難しいですね。でも、私達の身の回りで実際に制御されているもので考えてみるとそんなに難しくない考え方です。
例えば、エアコン。大昔のエアコン(といっても冷房機能のみ)では、扇風機みたいに「強・中・弱」のボタンしかついていませんでした。それぞれのボタンに対応する冷風を出し続けるだけです。これは全く制御されていません。しかし、最近のエアコンでは「設定温度」という機能がついています。例えば、設定温度を25℃とした場合、部屋の室温が30℃であれば冷風をガンガン出して冷やし、20℃しかなければ温風をガンガン出して温めます。そして、エアコンに取り付けられた温度センサで室温を常に計測し、室温が設定温度に近づくに従い、冷やしすぎないあるいは温めすぎないように冷風や温風の出し方を弱くしていくことで、室温がちょうど設定温度になるようにします。その後は、ちょろちょろと冷風や温風を出し続けて、その室温をキープしてくれます。これがフィードバック制御です。今の室温をフィードバックすることでエアコンの動かし方を調整し、部屋に冷風や温風を入力することで、部屋の室温という出力を制御しています。


「なんで、吹奏楽にまつわるコラムで、制御工学の授業をしているんだ?」って思われましたか? この感じ、何かに似ていると思いませんか? 私達が行っている、楽器を使って音を出して音楽を作り上げていくという行為。まさにフィードバックだとは思いませんか?
まず、1人で楽器を吹いているとき。例えばB♭の音を出す場合、耳で自分の音を聞いて、B♭の音が出ているか、ピッチがずれていないか、確認します。そして、違っている場合は運指を変えたり、息の出し方を調整して、狙った音にするはずです。フィードバックしていると思いませんか!


また、合奏している時。耳で周りの音を聞いて、曲の縦がずれていないか、ハーモニーが崩れていないか、確認しますよね? そして、縦がずれていればアーティキュレーションを変えたり、発音のタイミングを調整しますし、ハーモニーが崩れていれば音程を調整するはずです。ね?フィードバックしていると思いませんか!
私達の日常として、快適に生活・活動していくためには、フィードバック制御が大事であるのは言うまでもありません。それと同じように、私達が楽器を吹く、曲を演奏するという音楽活動をしていくためには、やはりフィードバックという行為がとても大事であることが認識できると思います。私は、研究者として常日頃制御のことばっかり考えているのですが、楽器を吹いているときも結局フィードバックのことを意識しているとなると、どんだけ制御のことが好きやねん!って感じですね・・・



中浦茂樹【なかうら・しげき】
佐世保工業高等専門学校
機械工学科 教授
吹奏楽部顧問
情報処理センター長

 

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