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Music People vol.61 髙田正臣

草の根の指導者として


 私は現在福岡市にある小さな中学校で、数学を教えながら、顧問として吹奏楽部の指導を行っています。どこにでもいるフツーの教員のお話になりますが、しばしお付き合いいただければ幸いです。

 私は中学の吹奏楽部でホルンと出会い、地元のごく普通の高校に進学。この時期、基礎練すると上手くなるという当たり前のことにようやく気づきました。大学時代はオーケストラで活動し、クラシックにどっぷりハマる日々を過ごしました。結局、学生時代は吹奏楽のコンクールとはほとんど無縁のまま卒業しました。今思うと、この経歴が今の自分に大きな影響を与えているように思います。

 元々指導に興味があったので、卒業後は市民楽団で活動しながらプロの方々に吹奏楽の指導法を学びました。会社員として働きながら近隣の中学校を教えていたのですが、あるきっかけでこの仕事の面白さに目覚めてしまい、免許を取って転職しました。現在教員10年目となります。

 さて、昨年の秋のこと、私の所に以前お世話になった先生から連絡が入りました。公立の学校では教員の異動が付き物ですが、その学校では吹奏楽を指導できる先生が異動で居なくなってしまったとのこと。地域のイベントに向けて生徒たちだけで練習していたものの行き詰まってしまい…という訳でヘルプをお願いされたのです。

 お願いされたのが11月。4月になれば新しい先生が来るはずだから、それまでのつなぎ。立場上、謝礼などは受け取れません。ただ、私はたまたまこの年吹奏楽部を受け持っていなかったので、何事も経験と考え、引き受けることにしました。

 無事にイベントを終えた後、私は生徒に「コンクールは出るの?目標はある?」と聞きました。部長くんは「金賞です。」と答えました。けれども、正直その時点では何もかも足りていない状態です。

 そこで私は「こんなこと言うと怒られるかもしれないが、自分はコンクールなんて“どうでもいい”と思っている。金賞取ったって、残るのは賞状一枚。そんなものより、1つでも多くのコンサートをやって、お客さんに音楽を届ける方が本当はずっと楽しい。けれど、ひとつの曲に徹底的に取り組んで最高の演奏を目指すという経験は、コンクールにしかない。その経験を通して、君たちは大きく成長できる。そしてその経験は、きっと後輩たちにも受け継がれていくはず。だから、自分たちに出来る精一杯の本番を目指そう」と言いました。

 正直、私がいない夏の話をしていいものなのかは迷いました。それでも目の前に生徒たちがいる以上、自分に出来ることは何でもやろうと考えたのです。そして、本格的に練習が始まりました。

 しかし、いざ練習を始めると大変なことの連続です。私が部活を見れるのは基本土日のみ。平日の普段の生徒の様子がわからないので、声かけの仕方も難しい。譜読みの宿題を出しても、なかなか進まない、進捗もわからない。さらには、コロナ禍の影響で土日の練習もままならず。途中からはタブレットを使ってリモートで合奏したりすることもありました。部活内のトラブルに遭遇することもありましたが、これもチャンスとたくさん対話ができました。

 1月に連盟の吹奏楽フェスティバルに出演、そして3月末には7年ぶりとなる定期演奏会を行いました。1月に出た緊急事態宣言のせいで十分な練習ができず悔いの残る部分もありましたが、たくさんのお客さんにも来て頂き、何とか成功させることができました。

 最後は「夏にまた会おう!」と再会を約束して、学校を後にしました。不思議な縁ではありましたが、私自身も生徒とともに成長できた半年だったように思います。

 部活動に関しては、現場の中でもさまざまな意見があります。生徒は演奏のプロを目指す訳ではないし、私もプロの演奏家や指揮者ではありません。けれど、私は音楽が大好きだし、生徒にも音楽を好きになってほしい。だから、知識も技術もコンクールも、すべて音楽を楽しむためにあるし、部活の中で音楽を楽しむことを通して、人としても成長してほしいと願っています。

 たとえ自分にスポットライトが当たらなくても、生徒の成長を共に喜び、音楽って最高だよな!と言い合える日々こそが、私にとっての宝物です。



髙田正臣【たかだ・まさおみ】
福岡市立曰佐中学校教諭

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