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「日本バンドクリニック50周年と米国海兵隊軍楽隊の来日」その4

秋山紀夫のバンド指導ヒント

「浜松での演奏会について」

 私は4月24日、フェッティグ大佐から「5月17日午後4時45分から5時15分まで、アクトシティ浜松のステージで最後のサウンドチェックをするので、その時〈サウンド・オフ〉のリハーサルをしてほしい」という依頼のメールを受け取っていて良いチャンスと期待していた。

 そして迎えた5月16日、クリニック開始の前日であったが、委員会から「50周年記念誌の中に、クリニックの発足やその後の経過についての座談会」の依頼があり、浜松にでかけ、小澤クリニック委員長、保科クリニック委員会名誉顧問、井田クリニック委員、それに私の4人で座談会が開かれた。その席で『秋山先生は明日16時から17時30分までの「日本吹奏楽指導者クリニック50年の軌跡」の講座に出席して、「クリニックの始まり」についてお話お願いします。そのため海兵隊バンドのリハーサルには出られませんので、よろしく』と頼まれてしまい、事前の練習は不可能なことを知らされた。

 その予定の通り、5月17日には午後4時から、コングレス・ホール31室での「日本吹奏楽指導者クリニック50年の軌跡」に出席した。講師はクリニック委員の山崎昌平氏をコーディネーターとして、次の3人、委員会代表の小澤俊朗、名誉顧問の保科洋、顧問の丸谷明夫の各氏。山崎先生のご紹介で始めに私が10分ほどクリニックの出来るまでについてお話し、各先生のお話に入った。講座は予定通り17時30分に終了し、夕食ののち、アクトシティ浜松大ホールで開かれた期待のワシントン海兵隊軍楽隊の演奏会に臨んだ。

 先ず当夜の編成からご紹介しよう。

ピッコロ 1
フルート 3
オーボエ 2
イングリッシュホルン 1
Ebクラリネット 1
1st Bbクラリネット 5
2nd Bbクラリネット 4
3rd Bbクラリネット 4
バスクラ/コントラバスクラ 2
サックス 4
バスーン/コントラバスーン 3

《以上木管: 30名》

ホルン 6
トランペット/コルネット 8
トロンボーン 4
ユーフォニアム 2
テューバ 3

《金管: 23名》

弦バス 1
ティンパニ 1
打楽器 4
ハープ 1
ピアノ 1

《合計61名》

メッツオ・ソプラノ歌手兼ナレーター 1

ファンファーレで開始され、ナレーター兼歌手のサラ・シェフィールド一等軍曹がバンドと指揮者を紹介し、隊長を招き入れ、両国国歌が演奏された。シェフィールドさんの和やかな司会で、通訳の年配の男性日本人高松氏が紹介されたが、専門のアナウンサーらしく、明快な言葉で聞きやすく快適だった。全曲目は以下の通り。

1. 行進曲「ゴールデン・ジュビリー」  J.P.スーザ作曲
クリニック50周年を祝った選曲。

2. ファンファーレ「フォ-・ザ・プレジデンツ・オウン」  ジョン・ウイリアムズ作曲
このバンドのために作曲された曲。

3. 「イロア・イロア」 ケヴィン・ヴァルチック作曲
タイトルはアラビア語で「神よ何故あなたは私を見捨てられたのですか?」の意味で日本の東北大地震と津波に追憶と祈りを捧げるため作曲され、2015年武蔵野音楽大学WEが初演した曲。日本を想って選曲されたもの。

4. 「春の日の花と輝く」 マンディア作曲/ハウイー編曲
ユーフォニアム独奏マーク・ジェンキンス上級曹長。バンドは半数ほどに編成を減らした。

《アンコール;ダニー・ボーイ(ロンドンデリーの歌)》

5. 吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」より第3楽章「祭り」  伊藤康英作曲
客席には「浜松出身の作曲家」と紹介された伊藤先生とご家族の姿も見られた。

盛大な拍手に応えて、なんとここでプログラムにないアンコールで海兵隊公式行進曲「忠誠」(J.P.スーザ作曲)が演奏され聴衆を興奮させた。

休憩15分

6. 「祝典序曲 作品96」  ショスタコーヴィッチ作曲/ハンスバーガー編曲
指揮:ライアン・ノーリン大尉・副隊長

7. 「ユーソニアン住宅」より II. タリアセン・ウエスト III. 落水荘 M.ジルバート作曲
この曲は海兵隊バンドの委嘱で作曲された。作者の初の吹奏楽作品。米国の建築家ライトの設計したニューヨークの新しい住宅を描いている。作曲者ジルバート氏は来日し客席にいたので、この世界初演の曲が終わるとステージに招かれ、盛大な歓迎を受けた。

8. 「アイ・ガット・リズム(ミュージカル「ガール・クレイジー」より)」 G.ガーシュウィン作曲
独唱;サラ・シェフィールドのパンチの効いた魅力的な歌。

《アンコール:ミュージカル「ポギーとベス」より「サマー・タイム」 G.ガーシュウィン作曲》
「サマー・タイム」の中に数小節「さくらさくら」の旋律が現れ聴衆を喜ばせた。

9. 行進曲「海を越える握手」 J.P.スーザ作曲
ゲスト指揮:クリニック委員長 小澤俊朗
クリニック委員会の招待に感謝し、小澤先生を指揮者に招いた。このマーチは横浜の演奏会でも演奏された。

10. 「交響曲第3番」よりフィナーレ A.コープランド作曲/D.パターソン編曲
有名な「市民の為のファンファーレ」の入った曲。

 演奏が終わると嵐のような拍手が起こりアンコールが2曲演奏された。
 
 1曲目はなんと久石譲作曲「もののけ姫」のテーマ。この曲を選んだ理由は、米国のブラボー・ミュージックの責任者マーク・ハンフリーズの推薦だった由。もし私がアンコールの相談を受けていたら、迷うことなくハロルド・ワルタース作曲「日本民謡組曲」の第2楽章「さくらさくら」を推薦しただろう。ホルンや木管、特にオーボエのソロなどが、あのバンドの見事な音色で生かされて、広い年齢層の聴衆に深い感動を与え、2曲目の「星条旗よ永遠なれ」と完壁な組み合わせとなったことだろう。隊長が日本を理解していたことが聴き手に伝わったであろう。

 2曲目は行進曲「星条旗よ永遠なれ」。その後小澤委員長から記念のトロフィーが、ヤマハからは大きな群馬県製の片目の「だるま」が贈られた。

 暗転して次の予定のアナウンスが終わっても拍手が止まず、明転して隊長がカーテンコールを受けて退場し暗転。然し止まぬ拍手に再び明転、2度目のカーテンコール。それで隊長が退場してまた暗転。それでも拍手は止まず、再度明転して隊長が登場して3曲目のアンコール、スペシャル・アレンジの「ヤンキー・ドゥードゥル」を演奏せざるを得なくなり異例のアンコールとなった。それほど感銘を受けた演奏会だった。その演奏の後、2時間以上にわたった演奏会が興奮のうちにやっと終わった。

 その後エキジビション・ホールで盛大なパーティーが夜遅くまで開かれた。この5月17日夜の演奏会の実況DVDは当日の予約で購入できたが、お持ちでない方は、カフア・レコードから発売のCD(品番: CACG-0291 税抜¥3,000)がある。

 また7月16日にNHK-BSプレミアム「クラシック倶楽部」で、金沢で収録された録画が放映されたが、私は台湾に出かけていて見ることが出来なかった。

 またこの軍楽隊の演奏や音の作り方については、バンドジャーナル誌8月号の武田晃氏の演奏会報告記事や、バンドジャーナル誌10月号の武田晃氏とフェッティグ隊長の対談の記事が参考になるので一読をお薦めしたい。

 5月18日(金)午前9時から10時までの1時間が「スーザの行進曲の演奏法」のクリニックコンサートで、次の曲が解説と共に演奏され、大変興味深いクリニックで、改めてスーザの行進曲の多様性について理解を深めることができた。

 例として取り上げられた曲は以下;
「星条旗よ永遠なれ」「ライフル連隊」「忠誠」「ワシントン・ポスト」「マンハッタン・ビーチ」「エル・キャピタン」「外交官」「銃弾と銃剣」、以上解説を交えた演奏で約55分かかった。

 次に私が紹介され、ステージで隊長にハグで迎えられ、日本スーザ協会の会員として各個人が登録している行進曲「サウンド・オフ」を指揮する機会に恵まれ、今年90歳の私にとってまさに「冥途の土産」になる思い出となった。



 次に掲げる楽譜は「サウンド・オフ」の第2マーチの終わり、トリオに入る前の部分と、トリオの中奏、いわゆる《ドッグ・ファイト》(意味不明の方はバンドジャーナル誌11月号『視点』をご参照ください)の部分の楽譜で、この部分で何ヶ所か打楽器が特徴のあるアクセントを付けねばならないところがあり、リハ無しの指揮で、正しく打楽器に指示しなければいけない部分で、私としては一番注意をした部分。アクセントを強調した部分は、はたしてどの部分かおわかりいただけるだろうか?

【問題】 





【回答】 





 お陰様で無事に終わり、隊長と共にカーテンコールまでしていただいて終了した。出番を待っている間ずっとステージの裏にいた私は、隊長の解説やその通訳がまったく聞けずにいた。音は聴こえたが、一番興味があった部分は解説だった。やがて7月近くなってヤマハに注文しておいたDVDが到着。さっそく再生して気がついたことがあった。それは解説で、隊長は譜面台のメモを見ながら話し、それを舞台下手の女性の通訳が日本語にしてくれた。彼女も譜面台のメモを見ながら通訳しているようだが、正確な部分もあるが、そうでないような部分もあり、ある部分では「スティンガー」という意味がわからず質問している場面もあった。不思議に思った私は、正確な英文がほしいので、隊長に「隊長が見ていたテキストを送ってほしい」とお願いした。折り返し届いた原文を見て驚いた。赤字で印刷された英文の一区切りごとに黒字で完璧な日本語訳も印刷されていた。私は「このテキストは米国で作ったものか?日本で作ったものか?」と尋ねてみると、答えは「全文は日本に行く前にワシントンで作った」ものと分かった。つまり通訳は日本文だけを読めば良かったのだった。しかしこの英文のお蔭でバンドジャーナル誌10月号の「スーザ行進曲演奏法」の記事では、無駄のない正確な解説文を掲載することができた。


 以上が今回のワシントン海兵隊軍楽隊の演奏会について私が知る限りの裏話のすべてである。裏話は各地でもっとあるに違いないがとにかく無事終了した。

 ワシントン海兵隊軍楽隊220年の歴史に残る「初めての訪日演奏会」が大成功に終わり、日本バンドクリニックの企画計画とヤマハ株式会社の絶大な援助なしには実現できなかった。このような大変素晴らしい機会を与えてくれたことに感謝したい。

秋山紀夫【あきやま・としお】 秋山紀夫
 前ソニー吹奏楽団常任指揮者。現おおみや市民吹奏楽団音楽ディレクター。(社)日本吹奏楽指導者協会名誉会長、(社)全日本吹奏楽連盟名誉会員、アジア・パシフィック吹奏楽指導者協会名誉会長、WASBE(世界吹奏楽会議)名誉会員、浜松市音楽文化名誉顧問、アメリカン・バンド・マスターズ・アソシエーション名誉会員。ソニー吹奏楽団名誉指揮者。

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