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アジアの吹奏楽その歴史と現状〜韓国

秋山紀夫のバンド指導ヒント
日本の統治時代の記録;昭和17年(1942年)発行の吹奏楽年鑑による。
統治時代は1910年(明治43年)から1945年(昭和20年)までの35年間に韓国に存在したバンド

国民学校 1校
中学校 12校 (うち現地人指揮2校)創立が一番古いのは昭和5年。京城中は昭和10年創立30名編成、他は15名程度
師範学校 1校 京城(ソウル)師範学校、昭和9年創立、33名編成
青年団 1団体(現地人指揮)昭和12年創立、25名編成)
教会 1団体 昭和14年創立、20名編成
会社・工場 5団体 朝鮮鉄道局・局友会吹奏楽団、昭和14年創立、45名編成
 しかし、この時代の吹奏楽活動は韓国の人たちは正式には認めておらず記録も朝鮮戦争で失われてしまった。

 韓国では第2期を1945年から72年まで、ととらえている(2011年のシンポジウムでの金永昉(Kim Young-bang先生;韓国海兵隊バンド出身、百済藝術大学教授、韓国マーチングバンド協会理事長)の報告による)。この時代に韓国軍の制度が確立され陸・海・海兵隊・空軍に軍楽隊が編成され、かつ朝鮮戦争(1950〜1951年、休戦交渉始まり、未解決)を経験した。軍楽隊も整備され、警察音楽隊も編成されるようになり、特に高等学校で軍事教練の行進に必要で吹奏楽団が編成されるようになった。1950年代には駐留していたアメリカ兵が学校に楽器を寄付したり、指導した記録もある。


第3期:1973年以降
 1967年JBA(公益社団法人 日本吹奏楽指導者協会)が発足し「アジア諸国と手を結ぼう」のスロ-ガンの下、1974年のJBA総会に金先生を招き韓国の実情を報告してもらい、翌1975年韓国を訪問し交流し、その結果KBA(韓国管楽協会)が生まれ、1976年からKBA主催のコンクールが始まった。また同じころソウル・ウインド・アンサンブルも出来た。マーチング・バンド協会も1980年に発足。1990年には国立音楽大学シンフォニック・バンド協会も発足、大学での吹奏楽の研究指導も盛んになった。
 軍楽隊の活動も盛んで、2006年以降、原州市や鎮海市でタットウー(軍楽祭り)が始まったが市長が変わったり、予算の削減で長続きしなかった。済州島では、1995年から毎年8月に国際ウインド・アンサンブル・フェスティヴァルを開催し、世界からバンドを招いて演奏会を開催し、併せて管・打楽器のソロ・コンクールも開催(金管高音部、金管低音部と打楽器を隔年に開催)し、世界中から青少年が参加、技術を競っている。
 ソウルでは2010年第1回韓国国際ウインドバンド・フェスティヴァルが開催された。このフェスティヴァルは、1950年6月に始まった朝鮮戦争でソウルは一時北朝鮮軍に占領されたが、同年9月15日国連軍が仁川に上陸し、28日にソウルを解放し、2010年がその60周年の記念に企画された。韓国で人気作曲家のオランダのヤコブ・デ・ハーンやスパニッシュ・ブラスが招かれ、音大生によるフェスティヴァル・バンドが編成されて、ゲストが指揮したり、韓国バンドの出演もあり、日本からはブリッツ・ブラスがゲストで出演した。その後この催しは2012年には英国の作曲家フィリップ・スパークの指揮者として東京吹奏楽団を招き、東吹とスパークとの関係が始まった。
 しかし2016年の第7回を最後に中止されている。


現状
 韓国の吹奏楽で現在一番元気のあるのは小学校で、技術的、音楽的にも高いレヴェルを持っている。コンクールにおける父兄の応援も、客席に自校の横断幕を張るなど積極的。2018年浜松市で開かれたアジア・パシフィック吹奏楽指導者協会の演奏会でもマサン・シンウォル小学校が素晴らしい演奏を聴かせた。
 中学校の活動はそれほどでもない。それは高等学校の吹奏楽が一時期700団体以上あったが、1970年代の終わりに学校での軍事教練が正課でなくなり、受験勉強が激しくなり、現在活動は実業学校に限られ、普通高校では活動が見られない。女子高校では、私立の一信女子高校が有名。マーチングバンドの活動は学校では鹽光女子看護学校一校だけと言ってもよいくらい少ない。一般大学の活動は少なく、音楽大学の吹奏楽活動は活発。
 代表的なバンドを持つ音楽大学は;ソウル大学音楽学部(国立)、韓陽大学音楽学部、大邱大学音楽学部(私立)。
 一般の市民バンドは1990年代から増えており、原州のアパッショナタ・バンドや、済州島のハルラ・ウインド・アンサンブルの活動が活発で、特に済州島のバンドは毎年来日して市民バンドと交流している。この指揮者は80代の人で、今から30~40年前までは日本語のわかる人が多かったが最近少なくなったので、日本とのコミニュケーションが取りにくくなっている、とのことである。
 作品については韓国民謡の編曲は見受けるが、作品がごく少ない。それはコンクールに出演する団体の演奏曲目に良く表れている。
 KBAの主催するコンクールは予選は無く、全国大会のみで、部門は
・男子高校の部(農業・商業・工業・・情報科の学校が殆ど)
・女子高校の部
・小学校の部
・中学校の部
・高校混成部(共学高校の部)であったが、次第に変化している。
 2017年度のコンクールは42回目を迎え、8月21日から26日まで23日を除き5日間にわたって開催された。内容は次のとおり。課題曲は韓国作品。
21日 小学校の部;40団体参加
   曲目;米国曲19、ヨーロッパ曲14 、日本曲6、シンガポール作品1団体
23日 中学校の部;3団体参加 (以前より大分減って、韓国の現状を表している)
   曲目;米国、ヨーロッパ、シンガポール 各1団体
   共学高校の部;11団体参加
   曲目;米国曲6団体、日本曲3団体、ヨーロッパ曲2団体
   男子高校の部;7団体参加
   曲目;米国曲3、ヨーロッパ曲3、シンガポール曲1団体
24日 小学校の部;23団体参加
   曲目;ヨーロッパ曲10、米国曲、9、日本曲4団体
25日 楽器編成自由の部(弦楽合奏、サクソフォーン合奏、フルート合奏等)
   12団体参加
   曲目;ヨーロッパ曲7、米国曲3、韓国曲1(編曲)団体
26日 社会人組;7団体参加
   曲目;米国曲2、ヨーロッパ曲3、韓国曲1団体。
 作曲者で圧倒的に多いのは、米国ではライネッケ、スウェアリンジェン等。ヨーロッパではヤコブ・デ・ハーン。日本人では、八木澤作品が全体で6団体が取り上げていた。注目すべきはシンガポールのベンジャミン・イエオで、最近米国でも楽譜が数曲出版されて注目されている。韓国人の作品が課題曲以外にはほとんどないのが残念だが、日本で人気のある高昌帥(こう・ちゃんす)や朴守賢(ぱく・すひょん)らの作品は韓国のバンドにとっては難易度が高すぎるのかもしれない。いずれにしても自由曲の選択に偏りがあり、アルフレッド・リードの「エル・カミノ・レアル」を演奏した団体はたった1団体だけだった。それにしても2001年には7校のみの参加のなかった小学校部門が63団体参加しているのも韓国の吹奏楽界の現状を良くあらわしている。


以下は、朴守賢の作品抜粋
《辿る旅》(2004 / ACL-Korea青年作曲賞優秀賞、大邱国際現代音楽祭最優秀賞受賞作品)
《済州島民謡によるラプソディー》(2009 / 「済州国際管楽祭2009」内、第3回韓国社会人バンドコンテスト課題曲)
《ヒナゲシの涙〜済州民謡「龍泉剣」によるファンタジー》(2012 / 「済州国際管楽祭2012」内、U13バンドコンテスト課題曲)
《祝祭のポンジガ》(2015 / 「済州国際管楽祭」20周年記念委嘱作品)
《レクイエム》(2018 / 漢拏ウィンドアンサンブル 済州4・3事件70周年演奏会委嘱作品)
《白の月に舞う》(2008 / ISCM「World New Music Days 2009 Sweden」入選作品)
《暁闇の宴》(2014 / 第7回全日本吹奏楽連盟作曲コンクール第1位、2015年度全日本吹奏楽コンクール課題曲V)
《トラジック・トラジ》
《5つの民族的小品【クラリネット】》
《「樹樂」より第4楽章「葉樂」【マルチパーカッション】》


秋山紀夫【あきやま・としお】 秋山紀夫
 前ソニー吹奏楽団常任指揮者。現おおみや市民吹奏楽団音楽ディレクター。(社)日本吹奏楽指導者協会名誉会長、(社)全日本吹奏楽連盟名誉会員、アジア・パシフィック吹奏楽指導者協会名誉会長、WASBE(世界吹奏楽会議)名誉会員、浜松市音楽文化名誉顧問、アメリカン・バンド・マスターズ・アソシエーション名誉会員。ソニー吹奏楽団名誉指揮者。

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