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Music People Vol.81 瀬川尚登

吹奏楽を通して様々な人と出会いたい!

【音楽との出会い】
 私は、兵庫県のほぼ西端にある人口2万8千人ほどの相生市という小さな町の中学校で部員25名足らずの吹奏楽部の顧問をしている音楽教師です。
 幼少の折、当時まだ珍しいカラーテレビで見たドリフターズの加藤 茶さんの叩くドラムに魅せられ音楽をしたいというのがきっかけでした。その後、地元中学校の吹奏楽部で念願の打楽器を担当し、それから高校、大学と音楽漬けの毎日でした。
 卒業後、5年間の臨時講師を経て兵庫県の教員採用試験に合格し、晴れて音楽教師となりました。しかし、採用後も15年間は陸上部・バレー部などの運動部の顧問をし、吹奏楽部の顧問になりたくて音楽教師を目指していたのに、顧問が出来たのは40歳を過ぎてからでした。


【吹奏楽指導者として】
 小編成バンドの顧問を始めてから5年間は練習の要領も悪く、毎年地区大会では銀賞でした。もちろん、私自身はコンクールバンドを目指していたわけではないので結果にこだわりはなかったですが、顧問6年目の3年生に、「先生、金賞を取りたい!」と言われ、どうすれば良いのか?と慌てる自分がいました。47歳からの新たなる挑戦です。
 3月のある日、某音楽雑誌に目を通していると、大学時代の友人が特集されていました。「中学校吹奏楽コンクール全国大会連続7回金賞」という見出しに目を奪われ、さっそく彼に連絡をしました。すると春に私立高校へ転勤するとのことで、その後、彼のもとへ伺いました。そこで目にした練習は、やはりロングトーンなどの基礎・基本を中心としたものでした。高校の練習方法を参考にしながら、中学生には難しいものはアレンジをして、生徒たちとがむしゃらに練習をした結果、翌年には初めて地区大会を抜けて県大会出場、そして関西大会代表の推薦までいただけました。しかし、関西大会では初めてのことばかりで、生徒・教師ともに極度の緊張から演奏時間が延びてタイムオーバーの失格となりました。その日の生徒とともに涙したことは一生忘れられません。

【作曲家や演奏家との出会い】
 この後、演奏時間も含め演奏や指導に対して私の中でいろいろな変化が生まれました。当時流行りだしたSNSの1つであるフェイスブックを始めたこともそうです。そこには作曲家や演奏家、吹奏楽指導者などの日常や想い、考え方などありとあらゆるものがありました。その中でも「関西吹奏楽指導者研究会」の活動に興味を引かれました。同郷の井上 学先生をはじめ、関西で熱心に吹奏楽指導をされている演奏家や指導者の方々との活動を拝見したり、交流を通して多くのことを学ばせていただきました。それと同時に楽曲に対しての見方や考え方も変わり、作曲家の先生との交流も始めました。
 ちょうど翌年のコンクール自由曲を検討する時期に、YouTubeで八木澤教司先生作曲の「新たなる息吹」を見かけ、「これだ!」と感じました。たまたま勤務校卒業生で大阪交響楽団テューバ奏者潮見裕章氏が八木澤先生とご懇意であることを知り、ご紹介いただきお目にかかる機会をいただきました。お目にかかった八木澤先生はとても穏やかで気さくな方ですが、しかし楽曲の質問には的確にいろいろとお教えいただけました。本当に「なるほど!」と感心したり驚くことばかりでした。
 私は指導者として、中学生のうちに演奏すべき楽曲、メロディー、ハーモニー、そしてリズムがあると思います。また、聴衆の気持ちや時代背景、作曲者の想いなど多種多様なものがあり、それをできるだけ正確にわかりやすく伝えたいとも考えます。もちろん、教えるだけでなく演奏者として生徒と一緒に考え悩み共に作り上げたいと思います。その過程で、作曲家の作曲の動機やイメージ、空気感や色彩など、いろいろなことがもし伺えれば、楽曲を仕上げる上でとても大きな力となったり、演奏に説得力が出てくると思います。もちろん、楽譜を開いて作曲家からのメッセージをまず受け取ることが大前提ですが、やはり、「どうかな?」と疑問になることも少なくありません。そんな時に、作曲家の先生にアドバイスをいただけることは大変重要なことだと考えています。指揮者、指導者、演奏者が、作曲家の方々とちょうど良い距離間にあることは、両者にとってプラスになることが多いように感じられます。しかしながら東京を始め関東周辺には作曲者や指導者が多くおられますが、関西はまだしも西日本では皆無と言っても良い状態です。八木澤先生は現在兵庫県にお住まいで、私ともご縁がありご相談をすることもあります。これは我々関西周辺の指導者や演奏者にとっては大変ありがたいことだと思います。
 また、生徒の技術面でも一人の教師が全ての楽器を指導することは大変なことです。そんな時、各楽器の専門家からの指導や助言は大変ありがたいものです。フレーズの作り方や換え指など…疑問点は毎年出てきます。そこで阪神間の演奏家との交流も始め、自身の大学の教授にもたくさんお世話になっています。講師の先生方の指導でみるみる上達していく生徒たちの姿を見ることはとても嬉しいことです。

【吹奏楽と管弦楽】
 次に私が気になるのが、吹奏楽と管弦楽(オーケストラ)を比較区別したり優劣を言われる方がおられることです。私自身は、吹奏楽と管弦楽は全くの別物で、それぞれに素晴らしいところがあり、比較区別は難しいと考えています。高校1年生より地元のオーケストラで演奏する機会をいただき、近年は運営員もさせていただきました。現在は、近隣の一般の吹奏楽団で指揮者をさせていただいています。この2つの経験から楽団の運営方法や演奏会に対する聴衆のニーズなど全然違うと感じています。
 例えば、オーケストラでの楽曲は、基本的にクラシックと呼ばれる200年程前から20世紀前半に作曲された楽曲です。そのため、当時の時代背景や作曲者に想いをはせて演奏することがほとんどです。アマチュアでは特に存命中の作曲家の楽曲を演奏する機会はほとんどありません。しかし、吹奏楽ではクラシックと呼ばれる楽曲で、アルフレッド・リードやスーザのマーチ集などはありますが、演奏される楽曲は現在活躍中の作曲家が中心です。また、ポップスや演歌などの歌曲を演奏することも特徴だと思います。歌詞のある楽曲を管楽器で演奏することはやはり特別なことだと感じます。それに管弦楽では、ヴァイオリンなどの弦楽器が中心でブレスを必要としないので、フレージングなども大きく作れます。また、弦・管・打のブレンド感はすさまじく、ホールいっぱいになる豊かな響きがあります。しかしオーケストラでの管楽器は、それぞれ2管か3管に限られ、それだけでは十分な音量やアンサンブルにはなりません。ところが、吹奏楽では管楽器が主体なため、ブレスが必要でフレーズの作り方に工夫がいります。しかし、管楽器だけの一体感は素晴らしく、打楽器もティンパニをはじめ、鍵盤楽器等も加わることで、力強い音から柔らかい繊細な音色までいろいろな表現ができます。また、演奏形態も複数ありホールでも演奏もしますが、屋外での演奏やマーチングなどもあります。
 現在のプロの管楽器奏者のほとんどが吹奏楽部で楽器に触れ、その後専門的な教育を受け、大学等で独奏曲やオーケストラを経験しています。ところが、アマチュアの方々はなかなかオーケストラの経験ができません。そのようなことも関係しているのかもしれません。しかし、私は吹奏楽をする上でオーケストラの楽曲を聴くことは大変重要だと思います。フレーズ感や対旋律、ハーモニーなど、音楽の基礎・基本のエッセンスが詰まっているのがオーケストラの楽曲だと思います。200年以上前から脈々と受け継がれてきた音楽の理論は最も大切にするべきものだと思います。

【最後に】
 私には、輝かしい経歴も実績もありません。しかし、一地方の小さな町でも吹奏楽を愛好し生涯楽器演奏を続けてくれたり、音楽の世界に進んでくれる生徒を育てたいと思っています。そのために、作曲家や演奏家、指導者の力を結集して大きなコミュニティーを作り育てていきたいと思います。また、4年前に文化庁から出された部活動のガイドラインや今年度(令和5年)から始まる部活動の地域への移行も地方では深刻な問題になると感じています。それこそ、地域を巻き込んだ吹奏楽など音楽を中心としたコミュニティーを作っていきたいです。そこで、始めに学校教育、そして地域教育へと広げていきたいと考えています。また、このたびコラムを執筆することを勧めていただいたロケットミュージック代表取締役の助安氏との出会いも、今後新たな出会いに発展して行くものと感じています。
 一人の知識や力はちっぽけなものですが、皆さんとの出会いで素晴らしい世界が開けていくのも事実です。その素晴らしい出会いを信じて、今日もロングトーンから始めます。

 

瀬川尚登【せがわ・ひさと】

兵庫県 相生市立 那波中学校 音楽科 主幹教諭  吹奏楽部 顧問

たいし ウインドアンサンブル 常任指揮者

 

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