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Music People vol.63 黒野普慈佳

15人の吹奏楽部、夢は大きく


  普通の県立高校に勤めるしがない一教員の私に、このようなコラムを書かせていただく機会があるとは、夢にも思いませんでした。(しかもこんな教員4年目の若輩者に…!)
 きっと、本校の吹奏楽部が直面している課題は、多くの学校さんに共通することかもしれない…!と思い、筆を執って…いや、キーボードを叩いています。

 本校の吹奏楽部は現在3年生5名、2年生6名、1年生4人の15人で活動しています。そのうち2人は、コロナの影響や家庭の事情により楽器を吹くことができなくなり、マネージャーとして部に協力してもらっています。つまり、奏者は13人。
 絶望的に致命的な人数不足。今年入ってくれた新入生には、全員に楽器の持ち替えをお願いしています。もちろん初心者もいます。演奏中に演出を挟もうにも、一人でも奏者を割くと致命傷になりかねません。
一方、顧問の私はというと、今年は3年生の担任。分掌は進路指導部。補習に模試に生徒との面談、もちろん日々の授業…毎日ひいひい言いながら働いています。絶望的に致命的な時間不足。(と、能力不足…)
 こんな状況では、「部活動に力を入れよう」なんて、なかなか思えないかもしれません。部活動縮小のご時世、そもそも部活動顧問は法律に明記されていない業務ですし、悲しいことに残業代もほぼ出ません。それに部員は15人。コンクールでは圧倒的に不利です。
 それでも、うちの吹部は今年の夏もコンクールに出ます。A編成で。そのことに誰も疑問を持たないし、今日も自由曲と課題曲の練習をしています。誰も諦めていないし、力いっぱい部活動に取り組んでいます。


 私自身が部活動を諦めないでいられる理由は、3つあります。
 まず、外部指導コーチの存在です。本校の吹奏楽部は、ユーフォニアム奏者の波多野江莉先生のご指導のもと、音楽を創っています。人数は少ないながらも、良い響きの音楽になるように持ち替えや読み替えを駆使して編成していただいています。なにより、波多野先生は、初心者だろうが人数が少なかろうが妥協せずに、部員一人ひとりと真剣に向き合って指導をしてくださいます。波多野先生がいなかったら、本校の吹奏楽部はこんなふうには活動できませんでした。
 そして、私自身が音楽に救われて生きてきたことも、大きな原動力になっています。小学生の頃から気が弱くていじめられっ子で、人間不信になり、自分が大嫌いで、高校は半ば不登校になった学生時代でした。それでも何とか最後まで学校をやめないでいられたのは、小学校から今でも交流の続いている友人と、吹奏楽部の存在のお陰です。感謝してもしきれません。音楽が大好きで、部活のために学校に行っていました。大学に進学し、吹奏楽サークルに入り、大嫌いな自分を変えようと奮闘し、最後には団長として本当に幸せな引退を迎えられたのも、音楽が大好きだという思いと、仲間の支えがあったからです。私を救った音楽の楽しさを、子供たちとも分かち合いたいと思っています。
 そして何よりも、懸命に練習に励む部員たちの姿です。当時の部員には本当に申し訳ない話ですが、教員1年目の頃、研修担当の先輩から「部活動は優先順位の低い業務だ」という“教え”を受けたこともあり、「こんなに仕事が忙しくて部活動なんて出来るわけない!」と、部活動を諦めていました。第1顧問をあてられましたがほとんど活動にも顔を出せず、日々の授業で精一杯の日々。当然部員から不満は出ましたが、「だって仕方ないもの…」と我慢をさせていました。それでも部員たちは、めげたりショゲたりしながらも、練習を重ねていました。何回か本番を重ねていくうちに、私も日々の業務で忘れかけていた「吹奏楽の楽しさ」を思い出し、少しずつ仕事にも慣れて、だんだん部活動にも顔を出せるようになって、部顧問としての「吹奏楽部の楽しさ」が分かるようになってきました。そして、新型コロナウイルス感染拡大というあまりにも強すぎる向かい風の中でも、諦めずにできることを探して活動を続ける部員たちのために、何かできることは無いかと考えるようになりました。心身ともに安全に活動できる環境づくりがメインですが、初見合奏や個人練習を中心に私も指導に入っています。
 子供たちの力は、本当にすごい。教員になってから人として多くの事を学びましたが、うちの部員から教えられたことは特に大きです。諦めないこと。ちゃんと相談すること。仲間を思いやること。

 話は変わりますが、少し前に、吹奏楽の指導者向けのクリニックに参加したことがあります。コロナが始まる前だったので、そこで知り合った先生方とお食事に行ったのですが、その時に「先生のところは部員何人なの?」と聞かれ、少し見栄を張って「・・・20人弱ですかねぇ。」と答えました。すると、「そうかぁ、コンクールは厳しいねぇ。地域の演奏会とかで活躍できるといいね。」とアドバイスをいただきました。
 その先生がおっしゃったことは至極真っ当で、人数が少ないとコンクールで不利になるのは事実だと思います。やはり、音の迫力が違う。名古屋市には強豪校もたくさんあり、圧倒的な人数と音圧の差がある中で、コンクールに出演するのは勇気のいることです。
 それでも、私はコンクールに出させたいと思うのです。それは、上手くなった方が絶対楽しいから・・・他の演奏会でも「上手に演奏しよう」とは思うけれども、他校と競うコンクールはやはり特別だと思います。「もっと上手くなりたい!」「上手くできると楽しい!」という思いを一番引き出せるのが、コンクールだと思います。


 部活動縮小のご時世。少子化に伴い、部活動をやりたい子供たちも減っていって、部活動をやりたい大人も減っていって、出来ることは限られていって、そのうち部活動の在り方も大きく変わっていくだろうと思います。
 それでも、部活動がどんな形になっても、子供たちに吹奏楽をやってもらうなら「吹奏楽の楽しさ」を共有できるようにしたい。本校の生徒で中学時代に吹奏楽部だった子でも、「中学の練習が厳しすぎたから」「楽しくなかったから」と言って、うちの吹部に入ってくれない子が何人もいて・・・残念だなぁ、と思ってしまいます。
 吹奏楽は、部活動のためにあるのではありません。コンクールの結果のためにあるのでもないです。せっかく子供たちが吹奏楽と出会ったのだから、その出会いを一生ものにしてほしい。せめて、「楽しかった思い出」や「幸せな思い出」にしてほしいです。
 それは、人数が少ないからといって叶わないことではないと思います。波多野先生の恩恵を受けながら、子供たちの力を信じて、どうしたら「吹奏楽の楽しさ」を心いっぱいに感じられるか・・・限られた時間や環境の中で、私も無理をしすぎず、部員と一緒に吹奏楽を好きでい続けられるように、もっと好きになれるように、試行錯誤を繰り返しています。

 拙い私の文章を読んでいただいたことと、この機会をいただいたことに感謝します。小さな吹奏楽部の活動が、どこかの学校に勇気を与えることが出来たら、嬉しいなと思います。

 

黒野 普慈佳【くろの・ふじか】
愛知県立惟信高等学校
吹奏楽部顧問

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