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Music People vol.44 斎藤葉

ハープの勧め


 令和2年の年頭をお健やかにお迎えになられたこととお喜び申し上げます。

 ロケットミュージックの助安社長から「ハープについて書いてほしい」とのことで、何を書こうかと思いましたが、先ず「どうもハープという楽器は敷居が高いらしい、というイメージを、何とか取り払って頂きたい」という気持ちで書いてみることにします。

 先日自分の幼い頃の写真アルバムを整理していたところ、黄色い帽子をかぶった小学生時代の遠足、とか、よくありがちなピアノの発表会、という傾向の写真ばかりのアルバムでしたが、中学2年の時のカルチャーショックな写真が登場しました。当時皇后美智子様のハープも教えていらっしゃり、N響首席で藝大も教えていらっしゃったという最高峰の故桑島すみれ先生が中央で、みたこともないような都会的な綺麗な先輩方、都心の素敵なサロンでの集合写真です。赤ら顔のぱっとしない中2が紛れ込んでいます。私は桑島先生門下に入門し、ハープを習い始めたのです!



 「ハープを始めるきっかけ」はいろいろあると思います。私の場合は、孤独感の強いピアノのお稽古から逃れたいと意を決して両親に打ち明けたところ「ハープならどうだ?」と逆に勧められました。ハープは「合奏の出来る楽器」「自分でチューニングする楽器」と捉えていましたし「オーケストラの最後列でほとんどじっとしているのに、曲の肝心のところになると構えて素敵な楽器が傾き、何がはじまるんだろうとわくわくする特別な楽器」と思っていたので、それならやってみようかと中学2年で始めることになりました。ピアノと譜面づらが同じですので、すぐに簡単なことは弾けた感じがしました。1年くらい習っていたら、すぐに地元のアマチュア楽団から、ハープを弾いてほしいとオファーがあり、地味でぱっとしない中学生が「ハープをやることによってこんなに注目されて特別扱いになるものなのか」とびっくりする日々を送るようになりました。楽団での通常練習方法は練習所にあるピアノでハープパートを弾いて参加しておき、本番だけ運搬してハープを使うというような方法で、大学の頃まで、ピアノもハープも同等に取り組んでいました。何しろ目立つ楽器なので、地味な人、引っ込み思案の人にも、思わぬ注目が集まり、人生が豊かになります。

 吹奏楽部で、ハープ担当を割り当てられる場合もあるでしょう。ピアノとの持ち替え担当は、前述のように入りやすいです。打楽器との持ち替えもよくあり、かつての東欧のプロオケでも目にしました。ハープを弾くという動きは「空中で手を握る」という運動の連続で「座って足もペダルをタイミング良く踏み替える」ということで四肢を使い、意外と運動のタイプはドラムにも似ている、とも思います。管楽器は、両手は楽器を持っていて大きく動かしませんので、大きな演出はダンプレなどになりますが、ハープは座ったままで時には指揮者のような大きなアクションで、音楽を演出することも出来ます。いろいろな原始的なルーツを残すハープという楽器の機能的制約が面白さとなり、音色の綺麗さや癒し力を自分で構築する手作り感・・・そういうことが感じられてきたら、段々にハープにはまってしまいます。他の楽器とのハモりも魅力です。また、オケなどでは大抵一人なので、気の強い人やしっかり者にも向いているかもしれませんし、そうでない人も気丈になってきます。

 ハープは「値段が高そう」「大きい」「難しそう」などというイメージでしょう。「高そう」についてですが、良いヴァイオリンや、弦楽器の良い弓、こういった楽器の方が、0一桁くらいハープより高価でしょう。骨董品的な弦楽器に比べると、見栄えの割にハープはお得、ということになります。ハープは最高級品にも限度があり、定価があり消耗品です。「大きい」ですが、電車に持って乗るということが無いですので、自分で重い思いをして持つということが意外と少なく、設備的な楽器とも言えます。しかしピアノほど移動が大変ではないので、大体どんな場所にでも運んでいくことが出来るとも言えます。「難しそう」ですが、グランドハープには半音操作のためのペダルが7本も、それも一つが3段階で、弾きながら変えていったりするのです。管楽器などは先ず音を出すということに最初のハードルの高さがありますが、ハープは弦をはじくだけで、誰でも綺麗なポーンという音を出すことが約束されています。小指は使用しません。

 合奏の中で、せっかく縁があってハープを担当しても、大音量のグリッサンドを弾きすぎて、指が痛くてハープが嫌いになってしまう人がいます。フェルトピックを活用しましょう。どんなプロでも、最強のグリッサンドは数回で指の表面が痛くなってしまい、セーブしないと肝心の本番の時に強い音が出なくなってしまいます。このようなハープ専用フェルトピックが1000円程度で売られています。

 ハープという楽器は、数千年の歴史がありながら、いつも脇役であったりしますが、どんな音楽にも不可欠で、意外と大事な役割を持っています。それで、廃れることがないのだと思います。ハープ独奏曲の世界も,魅力的な作品が沢山ありますし、オーケストラや吹奏楽はもちろん、テレビCM、劇中音楽、ミュージカル、さまざまな音楽の中で、ハープの役割は重要です。最近の私の自慢話しは「ONE OK ROCK with Orchestra Japan Tour 2018」 や、大野雄二先生作曲の「ルパン三世シリーズ」で,ハープを演奏して参加していることです。



 ハープに興味を持たれたら、楽器店付属の音楽教室や、個人の先生などに就いて、習いはじめることが出来ます。ハープ愛好者ならどなたでも入会できる「日本ハープ協会」では、親睦の事業や、第30回を数える「日本ハープコンクール」を運営しており、ジュニア部門、アドヴァンス部門、プロフェッショナル部門、にわかれての登竜門となっています。大体のハープ関連の情報が得られる「日本ハープ協会」のほかにも、愛好家の方々が集えるような、楽しいグループやイベントがいくつか存在しています。ハーピストは、楽しい人が多く、意外と男性奏者もけっこういます。

 さて、ハープの「少し敷居の高い感」を、払拭して頂けたでしょうか?

 このお正月、1月4日(土)と5日(日)に、気軽にハープを聴いて頂ける、新春ハープコンサート2020 を、横浜美術館レクチャーホールで開催しています。オーソドックスなハープ独奏曲のご紹介、チェロやフルートとのデュオ、ハープの魅力を皆様おなじみの曲に封じ込めた拙作の新しい編曲作品「ラ・カンパネラによる幻想曲」の発表など、1ステージ1時間強の音楽会になっています。どうぞ御予約の上、おでかけくださいませ。ロビーワンドリンク新年会も付いていますので、その場でどうぞお気軽に私にお声かけください!お待ちしております。





斎藤葉【さいとう・よう】
時空を超えた癒しの楽器ハープの"今"を追求するハープ奏者 "温故斬新"がモットー、クラシックの素養を基本に、確固たる演奏テクと、オープンマインドの精神でハープ音楽を拓く。横浜市出身。東京藝術大学卒業、同大学院修了。スイス・ローザンヌ音楽院に留学。十代よりプロ活動を始め、30歳で1991 年日本ハープ ・ コンクール プロフェッショナル部門第2位。東京で通算9回の自主リサイタルを開催。日本フィル、ウィーン・モーツァルト室内オーケストラ、横浜みなとみらいジルヴェスターオーケストラ等のソリストを務める。CD出版多数。1830年製フランスのエラールハープや、正倉院復元楽器の竪琴『箜篌』(くご)の収集および演奏にも取り組む。 クラシックジャンルでのオーソドクスな活動の傍ら、スタジオミュージシャンとしての演奏キャリアから培った独自の感性を発展させ、自作曲、多重録音やエレクトロニクスを駆使した新しい演奏形態や作品の創造にも取り組む。壮大なロックやジャズ系の公演にも参加。(社)日本青年会議所よりTOYP大賞受賞。日本ハープコンクール審査員。全日本高等学校選抜吹奏楽大会審査員。JASRAC準会員。日本ハープ協会理事。横浜音楽文化協会会員。

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