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バンド指導ヒント vol.8「マーチについて」

秋山紀夫のバンド指導ヒント

マーチについて


【マーチの拍子と形式】

マーチ(行進曲)は基本的に2/4、2/2、6/8の2拍子で、歌劇の中のマーチや演奏会には4/4拍子が用いられます。日本のコンク一ルの課題曲には4/4拍子の曲が多いため、バンドの メンバーにはマーチは4拍子という誤解もあります。
形式は以下のようになります

●前奏
●第1マーチ(原則的に主調の5度で終止)
●第2マーチ(一般的に低音主題が多い)
●トリオ(旋律的で主調の属調に転調)
●間奏
●トリオの反復

で、これがアメリカのマーチ的な形式です。ヨーロッパでは、トリオのあとにもう一度第1マーチを反復したり(たとえば「ボギ一大佐」)、トリオに後奏がつくこともあります(たとえば「日友」)。トリオでさらに5度下に転調するようなことはありえません。




【マーチの速度】

マーチの演奏でもっとも大切なのは速度の選択で、時代や国によって異なり、4分音符が1分間に120とは限りません。日本で一番誤解が多いのはこの速度です。日本の自衛隊ではこの速度に決められていますが、アメリカの海兵隊では時代によって異なっていました。
1867年以降:1分間に110(スーザのマーチならば1886年作曲の「雷神」、1889年の「忠誠」が該当)
1891年以降:1分間に120(1889年の「星条旗よ永遠なれ」、1908年の「美中の美」が該当)
1921年以降:1分間に128
1939年以降現在まで:1分間に120

これは、それぞれの年代の装備に大きな関係があったものでしょう。米国陸軍・海軍は海兵隊と同じですが、空軍のパレードでは116で少し遅いです。
英国にはスローマーチとクイックマーチがあり、やはり年代によって変化し、1950年以降はクイックマーチで108です。ドイツ、オーストリアは108~112、フランスは112~120で、2拍子の2小節ごとの第1拍を強調するのが、フランスマーチの特徴です。最大の誤解はスペインのマーチの速度で、スペインのパソドブレは決して速くありません。104~108でゆったりと演奏します。「アンパリトロカ」が英国に出版され、速く演奏されている影響を受けたためでしょう。
以上のほかにダプルクイックマーチやギャロップ(駆け足行進曲)があり、これらは160~166で演奏され、アメリカのサーカスマーチもこの速さで演奏されます。
速度の選択には充分に注意をしてください。



【強弱とアクセントの強調】

速度の次に、演奏上大切なのは、強弱の変化とアクセントのつけ方です。強弱を変えることは「星条旗よ永遠なれ」の第2マーチの1回目と2回目の強弱を変えることでよく知られています。また、音形によってことさらアクセントをつける工夫も必要となります。たとえば「星条旗」の第1マーチでは、1,2,5,6,11,12,15小節目の各1拍目にアクセントを強調しなければなりません。

強弱の変化の例としては、「ボギー大佐」のトリオの9~16小節と24小節から終わりまで、打楽器を強奏してリズムを目立たせる必要がありますが、ほとんどの指導者はこの部分の打楽器に注意を払っていません。このように強弱とアクセントには打楽器の使い方が大きく関係してきます。


【打楽器の使い方】

最近、課題曲のマーチの演奏で気になることは、打楽器を必要以上に抑えてソフトに叩かせていることです。もちろん、打楽器がバンドの音をマスクしてしまうような演奏は困りますが、マーチで打楽器の効果的な使い方を知らないことも困ります。

ヨーロッパの軍楽隊は、笛と打楽器からはじまり、これにラッパが加わり、オーボエやバスーンが加わり、19世紀になって、クラリネットが加わり、更に改良された金管楽器が仲間入りして、吹奏楽の形が形成されました。なかでも、タンブール(スペイン語で小太鼓、ドイツ語ではトロンメル。はじめは深胴)が大切な役割を果たしました。ドイツの軍楽隊では、1920年代からは浅い金属胴の小太鼓に代わりましたが、ヨーロッパやアメリカでは、現在でも深胴の楽器が用いられ、これによって重厚な打楽器のサウンドを出しているバンドが多いです。特に、古いヨーロッパのマーチの演奏には深胴の楽器を使用してほしいです。
フェネルが編集した行進曲には、打楽器のパートを、スーザ自身やスーザバンドのメンバーが打楽器のパートのアクセントを変えて演奏していたように校訂されたものもあります。



【使用する楽譜と出版社】

アメリカの楽譜では、初級バンドが演奏しやすいように、調を下げたり、旋律やリズムまで変えてしまっている版があるので注意してほしいです。

特にヨーロッパのマーチをアメリカで出版した曲は、楽器編成や和音を変えている例がありますので、特に注意が必要です。ヨーロッパのマーチを演奏するときには、ぜひオリジナル版を探して使ってほしいです。

 

秋山紀夫【あきやま・としお】 秋山紀夫
 前ソニー吹奏楽団常任指揮者。現おおみや市民吹奏楽団音楽ディレクター。(社)日本吹奏楽指導者協会名誉会長、(社)全日本吹奏楽連盟名誉会員、アジア・パシフィック吹奏楽指導者協会名誉会長、WASBE(世界吹奏楽会議)名誉会員、浜松市音楽文化名誉顧問、アメリカン・バンド・マスターズ・アソシエーション名誉会員。ソニー吹奏楽団名誉指揮者。

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