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バンド指導ヒント vol.6「ハーモニーのバランス」

秋山紀夫のバンド指導ヒント

ハーモニーのバランス


今回はハーモニーのバランスについて書いてみたいと思います。

さて、「ハーモニー」を勉強するためにはどのようにしたら良いのでしょうか?これは音の響きがまず大切ですので、言葉でうまく説明するのは難しいのですが、まず私が大切だと思うことは次の3点です。

a)和音をうけもつ各パートが正しいピッチでしかも正しい振動で音を出していること。
b)ハーモニーをピアノで弾いて生徒達に耳からつかませること。
c)和音をうけもつ各楽器間のバランスをよく保つこと。

まずa)の各楽器のピッチですが、ピッチは同時に正しい唇の振動で吹いていることが大切です。例えばトロンボーン等はよくのどをつめて唇の一部分だけで「クウー」というような貧弱な音を出していることがありますが、こういう状態では音も合わず、当然ながらハーモニーの美しい響きを味わうこともできません。しかしかなりひどい音がしているバンドでも、次のb)の「ピアノを弾いて耳から和音をつかまえる」ようにし、一つの和音を何度でも弾いて、それに続いて何度でも全員に吹かせてみると、1時間もするうちに結構和音らしい響きがしてくるから不思議です。これは和音の訓練の経験がない人は、楽譜に書いてある音はただ自分だけの音として考えているからです。多勢の中のそれぞれ異った音の中の一音だという感じを持っていないためです。つまりそれぞれの音を人に合わせるという気持なしに吹いていたら、まず良いハーモニーは生まれてきません。

次に、かなり上手なバンドにとっても欠けていることは「ハーモニーのバランス」です。いくら一人一人がピッチを正しく吹けていても、書いてある音をただ考えなしにワーッと吹いていたのでは良いハーモニーはできません。そこにバランスの問題があるのです。

わかりやすく次の和音を考えてみましょう【楽譜①】。これはごく当たり前のドミソの和音です。ピアノやオルガンで弾いてしまえば誰にでも簡単に鳴らせる和音です。しかし管楽器でこれを鳴らすには少くとも三本の楽器が必要で、しかもその上に各音を同じ強さで吹いてはいけないのです。と言いますのは、このドミソの和音のできる迄を考えてみましょう。

【楽譜②】は管楽器の根本的な理論である倍音列です。英語ではハーモニック・シリーズと言っていますが、管楽器の音はこの倍音列によって鳴らされているわけです。下に書いてある数字は16の倍音の各数を示していて、「奇数」が新しい倍音で、「偶数」は必ず前に出た倍音の倍数になっていてオクターブ音が高くなっています。つまり2は1の倍数で1オクターブ高く、6は3の倍数で1オクターブ高いという意味です。いまここに書いてある倍音列を確かめるには、お手持ちのユーフォニアム又はトロンボーンで吹いてみるのが一番わかりやすいでしょう(ただしこの楽譜をin Cとせずin Bbの移調式の楽譜と考えて吹いた方がわかりやすいでしょう)。そうすると2から8迄はピストンを使わず(またポジションも動かさず)開放の運指で唇だけの加減で発音できます。つまりピストンのない信号ラッパのように出せるわけです。そして更に唇の良い生徒なら9から上の音もピストンなしに出すことができるでしょう。とても16迄は無理かも知れませんが11か12位迄は出せる人はいるかも知れません。つまり、音は倍音になると唇だけでピッチがとれるのです。また1の倍音は普通あまり使いませんが2の倍音より更に唇を緩めると出すことができます。これがペレス・プラード楽団等によってマンボの演奏のときによく聴かれるペダルトーンです。

トランペットの場合は、ピストンを押さないで出せる最も低い音がつまり倍音2になっていて、高音部記号で書いてみると【楽譜③】のようになります。もちろん唇の訓練により倍音1も出すことができます。この倍音列はピストンを使用することにより【楽譜④⑤】のように変ります。他のピストンを押した場合については同様ですので省略しますが、とにかくこの倍音列によって管楽器の音ができていることはおわかりいただけたと思います。



さてそこで【楽譜①】のドミソの和音ですが、この和音ができるのに必要な倍音列を考えてみますと【楽譜②】の倍音を見ればすぐわかる通り、第六番目の倍音ではじめてドミソが形づくられることです。これをまとめて和音の形にしてみると【楽譜⑥】のようになります。



そうしてみますと「ド」が3つ「ソ」が2つ「ミ」が1つ、と気がつかれると思います。これがそのまま和音のバランスに通用するのです。つまり根音ドは3の力、第五音ソは2の力、第三音ミは1の力のバランスで吹けばよいことになります。それが第三音が特に強かったりしたら和音の響きはたちまちに濁って調和のとれた和音にはなりません。

そこに和音の合わせ方のコツがあります。まず根音をしっかり合わせ、次に第五音を吹かせて完全五度を合わせるのです。低中音の楽器で次の音【楽譜⑦】を吹かせてみますと、このグループが完全に音が合っていれば、吹いていないのに第三音ミの音が響いてきます。これは倍音の共鳴によるものですが、この響きがつかめると楽しくなってきます。



そこでホルン等のグループにこの第五倍音を出させてみるとよいのです。その時にまず響きをよく聴いて弱くやや低めに第三音を導入すると実に美しい和音ができます。長和音、短和音の響きを決定するのが第三音の大切な役目であるのと同様、この第三音のバランスはハーモニーの美しさを決定する大切な働きをします。もう一度言えば根音と第五音を先ず完全に合わせ、第三音を弱めにまたやや低めに吹かせるのが調和のとれた和音を作る秘訣だと言えます。

実例をあげてみましょう。【楽譜⑧】をみてください。

これらの音は各楽器でだぶっていて同じ音を二、三の楽器で吹いていたり、あるいは同じ楽器でも、例えば1番クラリネットの音を一人で吹いていたりして音のダブリはかなり多くなってきますので、いっそう音が濁る原因になります。
また第三音は次の楽譜【楽譜⑨】のように、1番クラリネット、1番トランペット、2番ホルン、2番トロンボーンそれにフルートが吹いていることになります。そこでこの和音をよい響きに作ろうとしますと、先ず次のグループ【楽譜⑩】の音をまず合わせ、次に【楽譜⑪】のグループを加えて五度を作り、まずこれをしっかりと合わせる必要があります。そしてこの【楽譜⑩⑪】のグループが完全に合うと【楽譜⑨】の音が空中にどこからともなく響いてきます。それを感じながら【楽譜⑨】のグループが弱めに静かに加わるとこの時はじめてすき通った美しい和音ができるのです。


ところがかんじんの第三音が1番クラリネットや1番トランペットそれに2番ホルンにあるために、「我こそは主旋律」とばかりに吹きまくってしまい、くわえてクラリネットは高めになる音であり又楽器の構造上鳴りにくい音であるため一層きたない和音になってしまいます。

このように和音も倍音から考えて良いバランスを考えることが大切です。かなりいいかげんな音で鳴らしていることに気がつかれることと思います。

 

秋山紀夫【あきやま・としお】 秋山紀夫
 前ソニー吹奏楽団常任指揮者。現おおみや市民吹奏楽団音楽ディレクター。(社)日本吹奏楽指導者協会名誉会長、(社)全日本吹奏楽連盟名誉会員、アジア・パシフィック吹奏楽指導者協会名誉会長、WASBE(世界吹奏楽会議)名誉会員、浜松市音楽文化名誉顧問、アメリカン・バンド・マスターズ・アソシエーション名誉会員。ソニー吹奏楽団名誉指揮者。

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