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Music People vol.58 菅谷詩織

鍵盤ハーモニカとの出会い


 「鍵盤ハーモニカ奏者です」というと「へえ、変わっていますねえ。どうして鍵盤ハーモニカを?」とよく言われます。
 普段の会話ではできないのですが、せっかくの機会をいただいたのでずいぶん前までさかのぼって、振り返ってみようと思います。

 小学校に入った頃、ピアノを習い始めました。それまでも歌ったり楽器に触ったり、ということは好きな方だったと思います。
初めてピアノを教えてくれた先生は上品で穏やかな女性の方で、のびのびと過ごさせていただいた思い出があります。
クラシックだけでなくその時々の流行りの曲もレッスンに取り入れてくださって、それを弾く時間は癒しでしたし、発表会で他の女の子達が綺麗なワンピースやドレスを着て舞台にあがる中、何を勘違いしたのかフワちゃんを彷彿とさせるド派手な蛍光色のポロシャツやパンツに厚底スニーカーで臨む私にも「詩織ちゃんは今回もすごいわねえ」と優しく受け入れてくださっていたのも〝のびのびエピソード〟のひとつです(呆れられてはいなかったと信じたい・・)。

 優しい先生のおかげでピアノが好きなまま中学生になった私は、吹奏楽部に入ってサックスに出会いました。
 これにはピアノの比じゃないほどのめり込みました。主にテナーサックスを担当しましたが、ハーモニーを支えたり対旋律を演奏したり、前面には出なくともこっそりじっくり音楽を楽しむあの感覚は今でも大事にしています。それからもともと楽譜を読むことが好きだったので「スコア」ほど面白いものはなかったですし、それを眺めながら演奏中のみんなの振り付けを考えることにもハマりました(笑)。
 進路を考える頃には「音楽」以外のチョイスがなくなっていました。



 サックスを自分の専攻楽器として、音楽コースがある高校に進学しました。
 吹奏楽部の盛んな学校でもあったので、部活が大好きだった私は、ここなら部活に入りながらも音大を目指せる!と、欲しいものが全て手に入ったような気持ちでした。
 しかし入ってみてびっくり。もしかしたら吹奏楽強豪校の方はよく分かる!というお話なのかもしれませんが、部内の規則が校則よりもうんと厳しくて、誰が規則を破ったとか、誰が問題行動をしたとかで、楽器の練習をしている時間よりもお説教の時間の方が長いのでは…と思うような毎日でした。
 みんなで常に音楽のことを考えて、仲間と楽しく成長していく時間が一番大事だと考えていた私にとってはハテナの連続で、入って半年で退部してしまいました。
 そこから一人でサックスと向き合う生活に変わるのですが、「みんなで合奏するのが楽しい」と思って続けてきた楽器との付き合い方が難しく、なかなかモチベーションがあがりませんでした。
 そんな中、ひとつの転機が訪れます。ちょっぴりどよんとしたまま迎えた公開実技試験で、私のサックスとピアノの両方の演奏を聴いたあるクラスメイトのお母様が、「サックスよりピアノの方が合ってるんじゃない?」とおっしゃったのです。
 その言葉には、ショックを受けた気もしますが、内心少し安心したような記憶があります。自分でも薄々気付き始めてはいたけど認めちゃいけないような気持ちで過ごしていたからです。
 後押ししていただき、高校二年生になるとき、あっさりとピアノに転向しました。



 決断は「あっさりと」でしたが、そのあとも管楽器を演奏したいという気持ちは消えませんでした。
 ピアノは和音も出せるし、ひとりでも演奏しやすい楽器。
 でもサックスの、音を伸ばしてる間にできる表現の幅は自分が音楽を演奏する上では欠かせない…。
 どっちも一気にできたらいいのにな、どうにかならないかなあ、と思いながらも、まずはピアノに向き合い、音大受験に向けた二年間を過ごしていました。
 そして…無事に受験を終え、また新しい生活が始まる!というときに出会ってしまったのです。私のわがままを叶えてくれるハイブリッド楽器「鍵盤ハーモニカ」に!
 当時私のピアノの師匠の周りでちょうど鍵盤ハーモニカブームが起きていて、師匠から「サックスやってたから上手に吹けるんじゃない?」と言われ、手にとってみたときは頭の中で「ビンゴ!」という声が聞こえるようでした。



 和音は出せる、音は伸びるしヴィブラートまでかけられる。
 サックス的な哀愁や色気を感じる音色も自分好み!かと思えばコミカルな雰囲気も併せ持っているというエンターテインメント性…。
 自分のことを全てわかってくれるソウルメイトと出会ったような感覚。

 こうして私の「鍵盤ハーモニカ道」が開かれたのです。

 …今回は楽器との出会いまでをゆっくりと綴らせていただきました。
 そのあと、大学生活を経て、今はありがたいことに鍵盤ハーモニカやピアノだけでなく作編曲などでもお仕事をさせていただいています。
 あらためて振り返ってみると、「自由に好きにやらせてもらった子ども時代」は、自分にとってとても大きかったなと感じます。何を言っても聞かなかった、という面も大いにあったとは思いますが…。
 これからも、自分の「好き」を信じて頑張ろうっと!

 最後までお読みいただいてどうもありがとうございました。






菅谷詩織【すがや・しおり】
ピアニスト・鍵盤ハーモニカ奏者・作編曲家。
クラシックベースな感性であらゆるジャンルにおいてコンサート、メディアなどでの演奏活動を行う傍ら、オリジナル楽曲制作や主にピアノや鍵盤ハーモニカ向けの編曲などを行う。その他アニメ・ゲームなどの劇伴作品へのレコーディング参加も多数。リコーダー・ケンハモ・ピアノの実力派3人組ユニット『おんがくしつトリオ』でも活動中。ミューザ川崎シンフォニーホールなど全国各地のホールで演奏。

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