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Music People vol.53 Sumika

スランプを乗り越えて掴んだ「私の音」


 「努力は結果に比例する」この言葉が大嫌いでした。
何故なら、どれだけ努力しても掴めないものがあったから。

 「あなたの担当楽器はサックスね」中学の吹奏楽部の体験入部後に担当楽器を発表された私は、「第一希望のパーカッションになれなかった・・・」と気落ちし、「しかもサックスって何?聞いたことない楽器・・・」と、茫然としていたことを覚えています。体験入部で一通り全ての楽器を試した中でも、サックスはそんなにうまく吹けた記憶もなかったので、尚更担当楽器に指名されたのが驚きでした。当時私はサックス、サクソフォンという名前すら知りませんでしたが、言われるがままに案内され楽器庫で渡されたのはなんとバリトンサックス。「お、重い・・・」と唸りながら練習場所まで運びました。


 サックスとはそんな出会いだったものの、その後部活に熱中し、暑い日も寒い日も渡り廊下の真ん中でずっとサックスを練習していました。2年生に上がってからはアルトサックスの担当になり、先輩・後輩と共に夏のコンクールや文化祭の練習にひたすら打ち込んでいました。
 みんなでワイワイするのが楽しくて演奏していたサックスも、3年生に上がるとだんだんと「もっと楽器が上手くなりたい」という気持ちが強くなっていき、個人レッスンを受け始め地元のソロコンクールに挑戦しました。その時に賞を獲ったのをきっかけにもっと楽器を極めたいという思いが芽生え、高校は音楽科のある学校を受験しました。受験での演奏も上手くいき絶好調で高校に入学した私でしたが、ここで1度目のスランプに陥ることになります。


 私が入学した高校の音楽科のクラスでは、中間テスト・期末テストと同時期に、同じように演奏の実技テストも行われました。中学の吹奏楽部で「上手い上手い」とおだてられ、すっかりその気になっていた私は意気揚々と練習。ですが試験当日、たくさんの審査員(講師の先生方)を前にすると緊張でまったく普段の力が発揮できず、冷や汗まみれで終了。もちろん点数は全く伸びず・・・国内外のコンクールですでに活躍している同年代の生徒の凄い演奏に圧倒され、ここで完全にぽっきりと鼻を折られてしまいました。
 しかしこんな絶望の縁で、新たな出会いがありました。その当時、同じ音楽科の先輩と付き合うことになったのですが、この先輩がめちゃくちゃ練習にストイックだったのです。私も負けじと毎日朝練、部活の後も学校が閉まるまで自主練習を続け、いつしかそれが習慣になっていきました。そしてこの習慣を続けてから、どんどん努力が結果に変わっていきました。実技テストの成績も上がり、出場したコンクールでも代表に選ばれたりグランプリを獲得したり。練習するほど上手くなる自分の成長がひしひしと感じられて、しまいには授業中に早弁をして昼休憩までも練習時間に充てるようになりました。そして最大の目標であった音大受験、募集人数の少なかった「特別奨学生」の実技試験に合格し、再び自信を取り戻し「努力は結果に比例する」という実体験は当時の私の座右の銘になりました。
 さて、また絶好調から始まった大学生生活。ん?なんだか嫌な予感・・・そうです。調子に乗ってるといつもこうなるのです。大学生活で、2度目となる人生最大のスランプに陥ります。


 大学生活は楽しい仲間にも囲まれて順調だったのですが、そのころから練習がとても苦痛になります。練習すればするほど、「良い音」から遠ざかっていくのです。周りの友達は皆良い音なのに、私の音だけ理想とかけ離れている。リードを変えて、マウスピースも変えて、お正月も休まずにたくさん練習をしました。高校の時、努力は結果につながった。だから今回もきっと、がむしゃらに頑張ればまた自分の音を取り戻せると信じて。
 しかし、努力も虚しく私の実技の成績は落ちるばかり。何よりも苦しかったのは、練習しても音が悪くなっていくばかり。練習室で毎日のように泣いていました。この頃私は「音楽を辞めることができればどれだけ楽だろう」と考えるほど気が滅入っていました。高校の頃信じて頑張ってきた「努力は結果に比例する」という言葉が大嫌いになり、「こんなにも努力したのに何も変わらない。所詮私には才能がなかったんだ」と不貞腐れ、サックス以外のことにも頑張れなくなりました。
 正直なところ、このへんの記憶はあまり残っていません。辛かった記憶はありますが、仲の良かった仲間たちにたくさん助けられていました。
 そしてある時私は「背負うことをやめよう」と、開放的になりました。「特別奨学生」として入学したからにはずっとレベルを保たなくてはいけない、先生に褒めてもらいたいから上手くならなくてはいけない、中学からこんなにも頑張ってきたんだから結果を出さないといけない、これらの「〇〇のために〇〇する」というスタンスで練習するのをやめました。解放的になることで失ったものもあるし、周りに迷惑をかけた部分もありました。でもこの時の私は、とにかく誰のためでもなく私のために演奏しようという信念を持ち始めました。そうして最悪の期間を終え無事に大学を卒業し、2年間のフリーランス期間を経てフランスに留学。ここでの経験が私の今までの考え方を大きく変えました。


 入学した音楽院のサックスのクラスは様々な国籍の生徒で構成されており、違う土地で様々な教育を受けてきた各国の全ての生徒の演奏が、私にとっては「聴き慣れない」新鮮な音でした。彼らにとって「音色」は「音楽」を構成するための要素であり、「良い音」というのはその曲に応じて変化し、そして聴く人によっても変わるものなのだと教えてくれました。とにかく「絶対的な良い音」を作ることばかりに拘っていた私は眼からウロコでした。音色のために音楽が存在するのではなく、音楽を作るために音色を作る。そんな根本的なことを、10年越しに気づかされました。
 気持ちが軽くなって行く中で、たくさんの個性に囲まれて「いったい私の個性は何なのだろう」と思い始めました。無我夢中でサックスを続けて、上手くなりたい一心でここまで来たけど、じゃあ果たして私は聴いている人に何を感じて欲しいのだろう?と。私は今までの「上手くなりたい」という思いではなく、「自分にしかできないものを見つけたい」という思いを胸に、留学生活はたくさんの音楽に挑戦しました。突飛で新しいことにチャレンジしてみて、自分探しのためにたくさんの作品に触れました。
 そんな時、同じクラスの生徒から「Sumikaの音って、とても素敵だね」と言われました。すると、その周りにいた他の友達も「わたしもSumikaの音が好き!」と賛同してくれたのです。高校時代以降言われることのなかったその言葉をもらった時、私は何かからやっと解放された気がしました。探しても探しても見つからなかったものは、もうすでに自分の中にあるものでした。

 15年間サックスを続けてきましたが、自分の音に自信が持てるようになったのは、本当にここ数年の出来事です。たくさんの回り道をし、時には辞めたくなることもあったけれど、たくさんの出会いと経験を経て私は今「私の音」を知っています。だからこそ、悩みを抱えながら努力した高校生活も、挫折しそうになった大学生活も、今の私の音を作る大切な期間だったのだと思えます。あの時に必死になってもがいたからこそ、こうやって今自分の音楽を見つけることが出来ました。過去のすべての経験が今の私の音楽を形成しています。

「努力は結果に比例する」この言葉が大嫌いでした。
私は今、努力する全ての人にこの言葉を贈ります。

「努力は未来に通じる」
この先も私はまた自分自身を見失ってしまうかもしれない。
でも、がむしゃらでもいい。立ち止まっても良い。
自分を乗り越えて掴んだものは、きっと誰かの心を動かす。




Sumika Saxophone Collection ソロ楽譜一覧

Sumika
音が澄み香るサクソフォ二スト。演奏動画を投稿する自身のYoutubeチャンネル [ Sumika ] Saxophone は現在登録者9万人、総再生回数は1000万回を突破。
Haute école des arts du Rhin 及びストラスブール大学修士課程を卒業し、現在フランスを拠点に音楽活動を行う。サクソフォン四重奏「Quatuor AVENA」のテナーサックス奏者としても国際的に活動し、倉敷、ブーローニュ、レオポルト・ベランの三つの国際音楽コンクールで第1位、特別賞を受賞。
2019年、ソプラノサクソフォンとピアノのための楽曲を収録した Oto-no series 1作目となる自身の1st CD Album【音ノ辞書】をリリース。Amazon売れ筋ランキングにて3つの部門で1位を獲得するなど、好評を博している。2020年11月、同シリーズ2作となる CD[ 音ノ雨 ] を発表。様々な若手作曲家とのコラボレーションで、サクソフォンの新たな可能性を追求する。

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