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バンド指導ヒント vol.4「はじめに何を教えるべきか(フルート、クラリネット編)」

秋山紀夫のバンド指導ヒント

はじめに何を教えるべきか(フルート、クラリネット編)

 新しい素晴らしい年度が始まります。今回は吹奏楽指導にあたり、「はじめに何を教えるべきか」を考えてみましょう。今回はフルートとクラリネットに焦点をあててみます。

 待望のピカピカ光る楽器が入っていよいよ練習開始となります。先生も新しい知識でいっぱいの頭をどうやって生徒に教えようかと一生懸命で、「ええ、これはフルートで、これはクラリネット、こっちはC調でこちらはBb調、これはEb調、みんな高さが違うんですよ。だからこちらがドを吹くときはこちらはエーとBbの音を吹くと合うんですよ。そのときEbの楽器の方はエーと、何んだっけ??」のように、はじめからやたらにむずかしくなってしまいます。

 さて楽器を手にした生徒にまず第一に何を教えねばならないかというと、「練習は毎日必ずやりなさいよ」「楽器は大切にしなさいよ」等々たくさんあるでしょう。楽器の取扱い方、特にフルートやクラリネットは楽器の組立て方からよく説明する必要があります。また当然吹いたあとの手入れ方も話さねばなりません。金管楽器でもピストンやスライドの取扱い方も大切です。しかしこれらのことはいろいろな本にも書いてありますので省略して、ずばり音を出す上に必要な問題に入りましょう。


1)ブレスと姿勢
 管楽器を勉強する上で、まず第一に大切なことはブレスのとり方、つまり「ブリーズィング」です。昔は姿勢をよくしなさい、さもないとよい呼吸ができず肺病になるぞ等とおどかされたものです。そうして姿勢のことばかりいうため生徒は肩に力を入れたり、首のまわりに力を入れて真赤になって力んだりしています。これは全く逆です。姿勢を良くすることを要求する必要はありません。正しくブレスを保つ場所を示してあげればよいのです。私は以前生徒達にブレスを意識させる方法として、椅子に座り上体を前にかがめて腹部の動くのを意識させるやり方をしていました。最近ではこれでもまだ不充分なので次の方法をすすめています。それは身体をあるポイントで支えるということです。そのポイントとは背中の丁度ズボンのベルトのあたりです。この部分の筋肉を緊張させてみることです。

 まず立って下さい。次に腰の背の部分を緊張させ背中をややそらせてみましょう。すると腹部会体に力が入って非常に身体が安定した感じになります。さてその姿勢をとってみると首の辺には少しも力が入っておらず、両手もダラッと下っているにも関らず、上体がまっすぐに伸びて、いわゆる良い姿勢になっていることに気がつかれるでしょう。そのポジションがブリーズィングに最も適した姿勢なのです。良い姿勢は良いブレスを作るのでなく「正しいブレスは良い姿勢を作る」のです。今迄のように「腹に力を入れよ」という表現は生徒達にとってなかなか理解しにくいものですが、「背中の腰のあたりを緊張させろ(ただ力を入れるのではなく横に拡げるように保つ)」という表現だと一度で理解してくれます。こうすれば腹に手をあててみる等という方法も必要ありません。さてこの姿勢で深くブレスが保てたら次は細く長く同じ分量で静かにはき出す練習をすれば良いわけで、声楽の場合と何らかわりません。これがまず第一に大切な点です。


 この要領ができれば、フルートはすぐに鳴らせます。でも、お待ちください。すぐにフルートを使ってはいけません。まず頭部管だけ外して口にあて、それだけで音を出してみるのです。吹口の穴に息を吹き込む角度の要領さえつかめれば、ブリーズィングの息を少し強くあてるだけですぐに音が出ます。もし音がうまく出ないときは、頭部管を外側や内側に少しまわして息のあたる角度を変えてみますと、最も大きな音ではっきり鳴り出す場所があるはずです。そのポイントがつかめれば、あとは空気の流出量を平均に長く保てば安定した音が出てきます。こうして頭部管だけでまず吹込みの角度と空気量の調節を学ベば楽に音を出すことができます。この練習は2週間ほど続ける必要があり、その間に唇を保つこと(唇の中央を楕円形にあけて空気柱を吹き出すコツ)とブレスを保ってロングトーンを出せるようにします。楽器に頭部管をつけて指をそえて音を出すのはそれからの話です。

 さてここ迄の段階ではもちろん舌を使うことも必要なのですが、次のクラリネット程は必要ではありません。クラリネットの練習では絶対的に舌の動きが重要な働きをします。

2)呼吸を止める練習
 クラリネットの練習をはじめるにあたって大切なことは、フルートのように呼吸をまずはき出すことではなく、発音するにあたって一度呼吸を止めてみることです。まず呼吸を充分吸いこんで「ハップ」というような要領で息をはき出し、同時に舌を上歯の上につけて、出てきた呼吸を瞬間に止めてしまいます。すると呼吸は舌にせきとめられてのどから口腔内に充満します。少し(2,3秒)そのまま呼吸を止めた後、舌を急にうしろに引いてみましょう。空気はいきおいよく流れ、そのまま口をクラリネットをくわえた程度の大きさにひらけば、空気はパッという感じで出てきますし、唇をほんのわずかだけひらくと「プスー」という感じに出てきます。クラリネットでは前者の感じに空気流が出てくれば、リードを充分振動させるだけの力があります。クラリネットの発音ではこれが大切なのです。クラリネットをくわえてはじめて音を出すときは、舌をリードの先端より少し下につけておき、一度呼吸の流出を止めて急に舌をはなして空気を勢いよく流出させて音を出すのです。このように一度舌で呼吸を止めて舌を引いたときに音が出るということは、今迄のタンギング(舌突き)という言葉から受ける印象とは全く逆です。音を切る、舌を突くという表現は生徒に全く誤った考えを持たせ、そのために発音するときの音の出だしがきたなくなったり、舌を歯と歯の間につき出して「ペッ」というタンギングになったりしている例が多くあります。「発音の第一歩は舌をつくことでなく引くことである」ということにならないといけません。こうして舌を引いて呼吸を出しっぱなしにしておけば、呼吸の続く限り音は出ていますから、次に音の長さによって(例えば四分音符が連続しているような場合)当然次の音の発音のためにもう一度舌がリードの上にもどって呼吸を止め(したがって音が止まり)、次に舌をはなしたときに次の音の頭が出ることになります。次の音を出すために舌を出すのですが、それによって音が出るのでなく、出した舌を引いて次の空気の流出が次の音を作ります。この動作が巡環して一連のタンギングになるわけですが、クラリネットの発音の第一歩は以上述べたように、まず呼吸の流れを舌で止めることでなければなりません。

 しかし勿論これだけでは良い音は出ません。以上の発音をする前に、右手の親指と唇にくわえた部分とで他の指の助けを借りずに完全に楽器を保持できることが大切で、その条件の上に以上の発音練習が必要なわけです。

 このようにして呼吸を一時止め、舌の助けを借りて流出させる練習の段階で、大切なことがもう一つあります。それは生徒が舌の動きにばかりこだわって呼吸を充分に強く吹きこまないことがあります。これでは最初の音が鳴ったとしても、すぐ弱くなっていろいろなピッチで充分楽器を響かせるような芯のある、はっきりとした発音はできません。吹きこむ呼吸をすべて音として鳴らすような吹き方が必要で、これは発音の次の段階のロングトー ンの練習を通しておこなわなければいけません。クラリネットのロングトー ンはまず開放のG音から下の音域に向っておこなない(譜例Gから下のE音まで一音一音ブレスしてたっぷりと鳴らしながら下り、E管から再び上方に上ってゆく練習で、クラリネットを習いはじめの1~2ヵ月はこのロングトーンだけの練習が必要で、こうするとアンブッシャー(口の締め方)の良い練習になり、その後レジスターキイを使ったとき、口の形をかえたり、音色をかえたりすることなしにスムーズに高音域に移行できます。初歩の段階では幅広い音域を吹くことよりも、まず正しい呼吸でクラリネットらしい音色を出すことに重点を置かねばならないのです。その練習なしにレジスターキイばかり使っていると唇が充分締まらないうちに高音域に移ることになり、したがっていつまでたっても音色が悪く、音の合わない原因となるのです。


 クラリネットにはその他良い音を出すための一つの条件として、クラリネットをくわえたとき、身体となす角度も大切です。昔は約40度~45度等といいましたが、楽器と身体のなす角度の大きいことは楽器の先が上に上がり、したがって下唇の圧力が弱まり、大きな音はしますがピッチが下がる原因となりますので、最近は40度以下にする、つまり身体に近い角度に保つことがすすめられています。アメリカの有名な木管楽器のクリニシャンであるウィリアム・ゴワーは約35度が良い、それ以下はかえって音が貧弱になっていけないとすすめています。この他にクラリネットではリードの厚みやつけ方にも問題がありますし、以上述べた呼吸をどんな角度で(口にくわえた楽器が身体となす角度ではない)リードにあたり管内に吹きこまれてゆくか、という問題もありますが、とにかくはじめに発音するコツをよくつかませ、その上でいろいろ良い音を追求してゆく必要があります。今回はブレスとそれにともなう姿勢、フルート、クラリネットの発音の第一歩について考えてみましたが、次回は金管楽器の発音について考えてみることにいたしましょう。



秋山紀夫【あきやま・としお】 秋山紀夫
 前ソニー吹奏楽団常任指揮者。現おおみや市民吹奏楽団音楽ディレクター。(社)日本吹奏楽指導者協会名誉会長、(社)全日本吹奏楽連盟名誉会員、アジア・パシフィック吹奏楽指導者協会名誉会長、WASBE(世界吹奏楽会議)名誉会員、浜松市音楽文化名誉顧問、アメリカン・バンド・マスターズ・アソシエーション名誉会員。ソニー吹奏楽団名誉指揮者。

1件のコメント

バンド指導のヒントは中断になっているのでしょうか。サックス編と金管編もぜひお願いします。

河田 安彦 2023年 3月 22日

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