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バンド指導ヒント vol.7「指揮をするということ」

秋山紀夫のバンド指導ヒント

指揮をするということ




 先日、モデルバンドを使って10人ほどの方が指揮をする様子を拝見する機会があり、考えさせられました。自信がなく、スコアを追いかけきれず、手の振りが遅れて演奏も遅くなってしまう、または出だしのサインがうまく出せず不揃いになってしまうなど、問題を抱えたまま指揮をされる方々がいたからです。

 これから書くことは既に指揮をされている方にとっては当たり前のことかもしれません。しかし、初めてバンドの指揮(バンドに限りませんが)にあたる方々には最初に理解していただきたいことです。

 結論を言うと「アマチュアバンドの場合、指揮者が感じている(持っている)音楽以上の演奏をしてくれることはまずありえない」ということです。

 指揮とは、「自分の持っている、感じている、あるいは心の中で歌ったり、鳴ったりしている音楽を、手(指揮棒)で表現し、相手(演奏者)に伝え、相手から自分が感じているのと同様の音楽を引き出すことである」という基本を知ることです。指揮棒で描く図形や手の動かし方(フォーム)は、そのための手段であることを理解すべきなのです。したがって、自分が楽譜(スコア)から何を、どう読み取り、心の中でどう歌っているかがまず大切です。テンポの設定(速さ)や、強弱、フレージングなどの表現は、自分の心の中にある歌(音楽)の反映である、ということです。自分が理解できなかったり、歌えなかったりしたら、その曲を指揮できないのは当然なのです。

 自分が持ち、感じている音楽を、相手にどう伝えるかが指揮の技術です。例えば、振り上げる手の位置、高さ(頭上、肩、胸、腹など)や振る範囲の幅や広さによって強弱が表現できますし、叩くポイントの動きや強さによってアクセントがつき、レガートも生まれてくるのです。まずそれを理解することが大切です。これは指揮の技法を勉強しなくとも、自分の中に音楽があれば、自然と出てくる技術です。

 次に、バランス、個々のピッチ、各パートやセクションの音の合わせ方、ハーモニーの仕上がり(ブレンド)具合などは、指揮する人の耳の良さにかかってきます。つまり、トレーナーとしての要素が指揮者には必要だということです。

 指揮者にとって大切なのは、演奏者から出てくる音が自分の想像どおりであるかどうかを聴きわける力、表現(演奏)の不十分さや誤りを正しく訂正できる能力です。このように、根源は自分の音楽に対するイマジネーションにあるということです。自分の中で音楽をどのように感じ、どう歌っているかが指揮に現れるということを理解しなければなりません。

 では指揮者が音楽を感じ、理解するためにはどんな訓練が必要で、どのような勉強をしなくてはならないのでしょうか。これらを考えてみましょう。

・歌唱力
・読譜力
・リズムの表現力(ここまでの3つの基本はソルフェージュ)
・歌と器楽の表現の違い(歌曲と器楽曲と言い換えてもよい)の理解
・テンポ感覚(適切なテンポを設定できる力、テンポを伸び縮みさせる能力)
・移調楽器の理解
・音楽のスタイル(様式)の理解(古典か、ロマン派か、現代音楽か、民謡か、民族舞曲か、ラテンか、ジャズか。ジャズならどんな種類か等)

 これらは指揮をする人には幅広い音楽知識と音楽に対する深い理解が必要だということを表しています。言い換えれば、音楽に対するその人の持つセンスとも言えるでしょう。また、管楽器それぞれの特性を理解するために、指揮者本人が最低1つでも管打楽器を演奏できるに越したことはないでしょう。

 さらに、スコアの誤りを指摘したり、スコアに書いていなくとも、必要な解釈や指示が出せる技術も持っていることが望ましいです。特にオーケストラ曲を吹奏楽に編曲した楽譜などは、原譜と比較してみることが必要な場合が非常に多いです。調をはじめとして、カットの有無、強弱を変えていないかどうか、テンポやアーティキュレーション(発音)の改編、使用している楽器が同じかどうか等、チェックする必要のある点はたくさんありますが、これらはもう少し進んだ技術と言えるかもしれません。

 指揮の基本的な技術のひとつに弱起(独:アウフタクト、英:ピックアップ)の曲の指揮法があげられます。大学バンドの学生指揮者などでよく見かけるのは、声を出して前の拍を数えることです。または、強起の曲の前で「せーの」と掛け声で指揮を始めていることもよく見かけます。もし、弱起が4拍子の4拍目から始まるのであれば、3拍目を上(顔の前あたり)から右下に振り下ろし、4拍目の出だしを指示すれば良いのです。

 これらが新しく吹奏楽の指揮に取り組もうとする方々にとって何かのヒントになれば幸いです。

(ここに掲載の先生方は、学校現場で活躍中の先生方です)


高田 亮 先生(洗足学園音楽大学講師、川崎市立橘高等学校吹奏楽部常任指揮者・県立弥栄高等学校芸術コース講師)


小澤 哲朗 先生(横浜市立桜丘高等学校吹奏楽部顧問)


緑川 裕 先生(柏市立柏高等学校吹奏楽部顧問)


村中 秀立 先生(川崎市立橘高等学校吹奏楽部顧問)


佐藤 正人 先生(尚美学園客員教授・武蔵野音楽大学講師)

 

秋山紀夫【あきやま・としお】 秋山紀夫
 前ソニー吹奏楽団常任指揮者。現おおみや市民吹奏楽団音楽ディレクター。(社)日本吹奏楽指導者協会名誉会長、(社)全日本吹奏楽連盟名誉会員、アジア・パシフィック吹奏楽指導者協会名誉会長、WASBE(世界吹奏楽会議)名誉会員、浜松市音楽文化名誉顧問、アメリカン・バンド・マスターズ・アソシエーション名誉会員。ソニー吹奏楽団名誉指揮者。

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